最高裁判所第一小法廷 昭和30年(オ)785号 判決 1957年6月20日
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人弁護士田辺恒之、同千葉宗八、同青柳洋、同田辺恒貞の上告理由、
第一点について。
しかし本件において、被上告人は所論の点につき主張をしていないものとは解することができない。そして原判示はその挙示の証拠によつて認定した判示事実関係に基き本件遡及買収を相当と認めたものであることは判文上明らかである。されば所論の主張並びに立証責任の問題はこれを取り上げて論ずるの余地がない筋合であるから、原判決には所論の違法ありというをえない。
同第二点について。
しかし乍ら、遡及買収の要件としては、必ずしも不当に買収を免れる意思のあつたことを要するものではないから、その意思がなかつたからといつて、遡及買収が旧自創法附則第二項にいわゆる相当性を欠くものともいえない。所論は畢竟独自の見解に立脚して右規定を解釈し、これによつて原判決を攻撃するもので、採用に値しない。
同第三点について。
自創法六条の二第二項四号は遡及買収の基準日以後において、地主もしくはその承継人が小作地の返還をうけた上その土地につき現に耕作の業務を営んでいる場合に関する規定であつて、本件のように、地主が右基準日以後に小作地の返還をうけたこともなく、またその土地について耕作の業務を営んでいない場合には、その適用はないものと解すべきであり、また、所論のように類推適用すべき必要あるものとも解せられない。此の点の所論も独自の法の解釈を固執して原判決を非難るものでしかない。その他の所論は、原判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違反を主張するものとも認められない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 入江俊郎)